弟の贈り物
聖霊王アルカディアスという守護神
最近、自動車事故のニュースが多くなった。少し前は高齢者の操作ミスによる事故が多く報道されていたが、今は煽り運転からの事故、というより事件のようなものが目立つ。
僕の母は数年前までタクシーの運転手をしていた。遅番もあるから家族の心配は絶えなかった。僕は自分が親不孝者だと思う。
僕の弟はまだ中学生だった。そんな彼が母にこんなものを渡していた。
デュエルマスターズというカードゲームに出てくる「聖霊王アルカディアス」というカード。
パワー12500。エンジェル・コマンドへの進化カードだ。
そしてマジックで「ママへ」と書いてある。渡したのはもしかしたら小学生の時かもしれない。こんなことすればゲームには復帰させられないし使えない。コレクター向きでなくとも価値がなくなる。
僕はカードゲームに弟ほど詳しくなかったが、彼の余りを借りたりしてちょっとやっていた。そしてそのカードがなかなか高価であることも知っていた。だから僕は口走ってしまった。
「何でこんないいカードを!」
僕は若かった。といっても今でも同じように口走っただろう。
妹が割り込んで言った。「だからあげたんだよ」
そうか、と心の中で納得した。
弟はそれをお守りとして母にあげていたのだ。
守護神のように、守護天使のように母を守れと。
事故に会わなかったのは、彼の気持ちが通じたからか、僕は母を乗せてあわや大事故になりそうになったことがあるが、回避された。それもこれのおかげか。
僕たちは危険な世の中に、命を預けながら生きている。誰も不幸は望んでいないのだ。
弟は今、もうカードゲームをしていない。大切な思い出はタンスの奥にしまってしまった。
母の方がカードを長く持つようになった。大切な思い出と共に。
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