ライブアライブリメイクの残念な英訳「そうだろ、松ッ!!」

2022年10月5日水曜日

ゲームレビュー

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ネタバレ注意!内容について触れています 

一つのゲームを不朽の名作にした印象に残るワンシーン

ライブアライブの中で、いえ、日本のゲーム界で愛される名言があります。

近未来編の主人公アキラのセリフ、

「そうだろ、松ッ!!」

です。

ニコニコ動画でも、このセリフで作られる弾幕は、セリフさながら、ストーリーさながらの一体感が見られる名物となっています。

インターネットが発達した現在、場所も時間も異なる人々が一実況者の配信を通じてこの場面で一つになっている様は、この”近未来編”のストーリーの奥深さを再認識させます。


名言と言っても、秀逸な話の流れの中でこそ輝く決め台詞。

様々な時代や風土をモチーフにした世界を短編で遊べるライブアライブは、ベタながらも人々の琴線触れる感動的なストーリーでコアなファンを獲得しています。

ぜひ実際にプレイしてみていただきたいと思います。


しかも今回の声優付きのリメイクは本当に完璧です。

声質といい、間といい、抑揚といい、すべての点において申し分ない出来栄えです。

アキラを演じられた赤羽根健治さんってすごいなと思います。

ただし英語バージョンは・・・

日本語の場合

この熱い展開を現在のインターネットでプレイヤーや視聴者と共有できる経験は素晴らしいのですが、それだけに英語版の翻訳が少し残念に感じられました。

英語版も声優付きですし、もちろんストーリーの改変なんかはありません。

ただ、「そうだろ、松ッ!」のニュアンスが結構変わってしまっています。

日本語バージョンはこんな感じです。

「ざけんなよ…

そんなカッコにならなくてもな…

一つにはなれんだよ!

なあ…

(ブリキ大王の操縦桿を握りしめて)

そうだろ、松ッ!!」


今見てみると松ッの”ッ”もすごい表現力だなぁと感じます。

英語はニュアンスが変わっている

英語バージョンはこうなっています。

セリフは以下の通りです。

” Screw this.

That thing's no god of mine.

And I'm not melding with these freaks or anyone else!

Still with me?

Then let's finish this, Matsu!

そして私の直訳に近い訳です。

ざけんなよ…

そんなものは神なんかじゃねえ

俺はこのキチガイとも誰とだって融合するつもりはねえ!

まだ一緒にいるか?

(ブリキ大王の操縦桿を握りしめて)

じゃあ終わらせようぜ、松ッ!

 いかがでしょうか?

一行目の"screw ○○"はふざけるなという意味に使われるので、「ざけんなよ…」のままにしました。

その後の流れは日本語と随分違う意味になってしまっています。


相手の文言、信条を否定する文章が二回続きます。

結構大事だと思われる「そんなカッコ」や「一つにはなれんだよ」といったニュアンスは消えています。

この「一つにはなれんだよ」という言葉は、病気で死ぬよりは液体人間になっても兄と一緒にいたいと言った妹カオリへの返答にもなっていて見事な伏線回収でもあるのです。

それがなくなってしまったのは大きな違いです。


さて、そんなカッコはthese freaksに該当すると思います。

上記では「キチガイ」と訳しましたが実際はこの表現では商品化できないかもしれません。

他に近い言葉として変人、奇人、奇形などがあります。

よく考えてみると、これは忌み嫌っているという意味を込めて日本語の「そんなカッコ」と互換性はありそうなので良しとしましょう。

ただ、私が最も気になったのが、最後の「そうだろ、松ッ!!」の英訳のセリフのテンポが悪くなってしまっていることです。

意味も違いますが、何より歯切れの悪さを感じます。

Let's finish this! (終わらせよう!、やっちまおう!)は英語圏では慣用句のようによく聞く言葉です。

ですから、こういうラスボスやラストバトルの前の高揚した雰囲気には合っていますし、使いたくなるのもわかります。

しかし、「そうだろ!松ッ!!」はこの場面固有の言い回しであり、よく使われる慣用句ととってかわってしまっていいのか疑問に思うのです。

同じものを共有できない寂しさ

じゃあどんな訳があるんだと言われると少し戸惑います。

確かに難しいです。

直訳するとIs that right? やDo you think so? といずれも疑問形になってしまいます。

日本語では一応疑問形ではありますが、?はついていません。

もしかすると、この「そうだろ、松ッ!!」の部分が英語では難しいので全体的にニュアンスを変えた、その際に「一つにはなれんだよ」も消えてしまったとも考えられます。


” Not depending on such a way, human being can become one!"(そんな方法に頼らなくても、人間というものは一つになれるんだ!)”

と前置きをなおしてみます。


そして私は”We know, right? Matsu!!”を推します。

「でしょ?」とか「だろ?」を”I know, right?”と言いますが、松こと無法松が一緒にいるということでIをWeに替えました。

一度疑問形で切りますが、松を呼ぶときに!をつけて言い切った風にします。

非常に簡単でひねりのない言葉ですが、日本語バージョンも言葉自体はシンプルですので、ここに小難しい言い回しを使う必要はないと思われます。

もしくは日本語では「あなた」のような主語が省略されがちですが、これは松に聞いていることは間違いないセリフですので”You know, right? Matsu!!”でも全然おかしくないわけです。


とはいえ英語バージョンの”Still with me? (一緒にいるか?)"と問いかけた後、最後に"Matsu!!"と名前を呼ぶことによって、息絶えたはずの無法松がそばにいることを確信させるレトリックは上手だと思います。

この訳が質が悪いとか、間違っているというつもりはありません。

シーンにしっかりと当てはまった訳ではあります。

ただ、日本語であれだけ一緒に盛り上がれる感動と同じものを、英語圏の人と共有できないことが寂しくもあり残念だなあと思ったということです。

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