内容について触れています。
シーンには合うけれど意味は違う
世界を長い間、恐怖と諦念に陥れていたシンを倒した直後のシーンです。
別世界の住人であるティーダと別れなければならないことを悟ったユウナは、絞り出すように言葉を投げかけます。
「ありがとう」と。
それを聞いたティーダはユウナに振り返り、ユウナを見つめ、なおさら苦しそうな顔をするのでした。
RPG界屈指の感動シーンだと思います。
好き合っている者同士が引き裂かれることほどつらいことはありません。
また恋愛感情抜きにしても二人は仲間として何段階もの試練を経て、心赦し、心を開いてきた仲なのです。
そんな二人がもう会えなくなってしまう。
どれだけそばにいたことが大切だったか。
失恋した人、大切な人との別れを経験した人が共感する場面です。
ティーダは体が霊魂のように触れることができなくなっていますが、まるで触れているかのようにユウナをしっかりとその腕で包み込みます。
そうするようティーダを動かした、思いと行動の懸け橋になったのがユウナの「ありがとう」という言葉でした。
それが英訳では「I love you」になっています。
どう思いますか?
「I love you」
私は最初にこの英訳をきいた時、「なるほど」と納得しました。
洒落てるな、ちょっとひねったな、英語ならそうなるか、と。
しかし納得しかけた後、「いや待てよ」と考えなおし、ちょっと残念に思いました。
「I love you」はいい言葉だと思います。
あの場面にピタリと当てはまる訳であるとも思います。
私は強く反対の意があるわけではありません。
ただ、「Thank you」でもよかったのではないかとも考え直したということです。
そして考えれば考えるほど、やっぱり「Thank you」がよかったとなります。
英語であってもサンキューはとても意味深く美しい言葉だからです。
もう会えなくなる人に伝える言葉として「ありがとう」「Thank you」は至高
英語のThank youと日本語のありがとうはほぼ同じ言葉、同じ感情です。
感謝という人間が社会の中で学び感じる初歩的かつ基本的な感情であるため、その誤差が少ないのだと思われます。
一方、「I love you」にすると英語ならではの意味合いになります。
感謝する対象にI love youと言うことはありますが、I love youという言葉自体に、直接的な感謝の感情はありません。
プレゼントをもらって嬉しさのあまりハグして「I love you! 」はありますし、そこには感謝の感情もあるでしょうが、I love you自体には感謝の意味はないということですね。
例えば、英語圏の親が子どもに言葉を教えていく過程で、マジックワードという形で伝えます。
それがThank youとPleaseです。
何かしてもらったらThank youと言うこと、何か頼む時にはPleaseをつけることを徹底させるのです。
Thank youと言った後にI love youと言っても構わないかもしれませんが、Thank youを言わずにI love youだけで済ませることはしません。
先日、英国のエリザベス女王がなくなられましたが、その時にチャールズ皇太子が女王に送ったメッセージはThank youでした。
また映画で交流のあったパディントンもThank youを使っていました。
Thank youは簡単な言葉でありながら、相手への敬意と愛情を示すために必要不可欠でとても大切な言葉なのです。
I love youはストーリーに別の角度を与える訳
I love youの訳になりそうなものをいくつかあげます。
ユウナがティーダに向かって言うシーンを思い浮かべて一つ一つ当てはめてみてください。
- 「好きだよ」
- 「愛してる」
- 「大事だよ」
- 「大切に思ってる」
補足ですが、欧米人はI love youを特に意味を考えて使っているわけではないという報告もあります。
あいさつ代わりに使う場合です。
別れ際や寝る前にハグしてI love youと言う場合です。
日本語でも「こんにちは」という挨拶の言葉があります。
こんにちはは、もともと「今日はご機嫌いかがですか」が略されてできた言葉だそうですが、こんにちはと言う時、いちいち「今日は」という意味を思い返して言っているわけではありません。
こんにちは - 語源由来辞典 (gogen-yurai.jp)
ただ、あの場面ではさすがに意味もなく言ったはずはないでしょうから、上記の四つに絞られそうです。
また、英語圏の文化では、親族以外の異性に対して使う場合はやはり気を遣うそうなので、「好きだよ」、「愛してる」が近いのではないかと思います。
そうすると、I love you はユウナが恋愛感情としてティーダに伝えた「好きだよ」と解釈してほぼ間違いなさそうです。
これはある意味非常にロマンチックな展開です。
ラブストーリーとして完結できる展開なのです。
それまでユウナは召喚士として犠牲になる覚悟でしたから、恋愛など考えられない状態でした。
ティーダは自分の気持ちに正直に生きようとそんなユウナを励ましてきました。
ユウナはそんなティーダの優しさに内心、慰められ元気づけられてきたことでしょう。
しかしユウナの強い責任感はその重すぎる運命から目を背けることができなかったのです。
シンを倒し、自分の責任から解放されたユウナが口にした言葉が「好きだよ」だったらラブストーリーとして素晴らしい流れです。
ティーダがユウナを自由にした。
それは責任という面からも、ユウナの控え目な性格という面からも、ティーダが自分らしく生きることを教えてくれたという展開になります。
ですから、I love youはThank youの代替品にはなり得ないけれど、ティーダとユウナの別れのシーンにぴったりな言葉と言えるでしょう。
英語訳を作ることによってできた副産物、アナザーストーリーといった見方ができそうです。
自分の気持ちを優先するか、相手の気持ちを考えるか
Thank youはユウナらしさでストーリーを締めくくる展開、I love you はユウナの変化を感じさせるストーリー展開と私は理解しています。
ここで「I love you-好きだよ」とあの場面で伝えていたら、それを聞いたティーダはもっと苦しくなってしまうかもしれません。
絶対にもう会えないと確信した時、だからこそ自分の気持ちを伝えておこうというのも間違ってはいないと思います。
ただ、言葉にしなくてもその人の愛情って伝わることもあります。
あえて伝えないことも制御という意味では立派な行動に当たるからです。
そして自分の気持ちを優先するのではなく、相手の気持ちを考えながらできる範囲で最大限の気持ちを表現する。
「Thank you-ありがとう」。
たとえ日本人よりもはっきり気持ちを伝えるのが好まれる印象のある欧米であってもThank youは決して力足らずではありません。
そこからはユウナらしさ、つまり思慮深さと慎み、そして全人類を愛した愛で、ティーダを慕う深い思いが感じられるということです。
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