3人の命を奪って死刑でなくていいのか
■量刑への憤り
私は愕然とした。
無期懲役。
こんなことが許されていいのかと。
人が3人も死んでいる。
3人殺されている。
人が殺されたのだ。
私は死刑推進論者ではない。
ただ現在、死刑が最高刑である以上、それを免れる正当な理由がどこにあるのか不思議に思ったのである。
横浜地裁の判決理由が述べられている。
【判決詳細】「責任能力は認められるが、死刑選択は躊躇」横浜･連続点滴死 元看護師の女に無期懲役 (msn.com)
短絡的で計画性あり、犯行当時は罪悪感なし、後悔なし。
自閉症スペクトラムの特性とうつ病を抱えているものの責任能力あり。
これが無期懲役という死刑の次に重い量刑となった理由だろう。
自閉症スペクトラムとうつ病に影響される責任能力の有無が争点となったといわれているが、やはりうつ病が酌量の主な要因となっている。
うつ病とは便利だと、うつ病の人の苦しみを省みず思ってしまった。
■醜いのは被告だけでなくこの世の中にあるもの
しかしこのうつ病が無期懲役か死刑かを分けた大きな要因であるから簡単に聞き流してはいけない。
この判決理由に使われている”うつ病”は他の文言とはまったく重みが違うのだ。
うつ病がもし被告本人だけで発症するものであればそれこそ世間が本人を責める材料にもなりそうなことだ。
おそらくうつ病が減刑の要因と聞いて起こる憤りはそのような思考からくるのかもしれない。
しかしうつ病は一人で発症する病気ではない。
他者からの攻撃によって生まれるのだ。
今回の事件では被告が患者の家族から怒鳴られたとある。
それがなければ今回の事件は起きなかったと考えられるのだろう。
そして被告を怒鳴った患者の家族は何か少しでも裁きを受けるだろうか。
いや受けない。
すると被告人だけが死刑を受けて、その要因の一つとなった患者の家族は何もとがめを受けないことになる。
被告人の死刑の賛否は別として、このままでは不条理この上ないことは明らかである。
現状、この家族を罰することができるほど司法は繊細ではない。
しかしこのような死刑が許されれば、誰かを意図的に追い詰めて重大な犯罪を犯させ死刑にするよう仕向けることだって可能である。
現に今そのようなことが起こっていないとも言い切れない。
それが認められれば人が人を殺すのではなく、法律が人を殺すことになる。
社会が人を殺すことを是とするのを認めることとなる。
こういうことがあって被告を叱責した家族を罰せられない代わりに、被告人の量刑を軽減するというロジックが用いられたのだと私は理解した。
それが判決の「被告人に対し死刑を選択することには躊躇を感じざるを得ず」という結論に至ったのだと思われる。
だから判決理由を読み始めた時ほど今は被告人に対して怒りはない。
しかしその分、やり場のない怒りが生まれた。
■同時期に出た判決で似ていると思った事件
被告の犯罪心理に関してこれと近からず遠からずの判決が最近あった。
空気銃で猫6匹殺傷 千葉の男に有罪判決 「80～100匹撃った」：朝日新聞デジタル (asahi.com)
千葉の男がネコを殺傷した事件であるが、動機に注目してほしい。
記事に男の供述がある。
「一方で男は『もともと猫は好きだった」とも述べた。しかし18年夏ごろ、千葉市の公園で猫にえさを与えていたところ通行人に注意され、『復讐（ふくしゅう）』のため猫に銃を向けるようになったという。男は『猫を見ると（注意してきた）男女の顔が思い浮かぶようになった』と説明した。裁判官になぜ猫を標的にしようと思ったのか問われても、『自分でも分かりません』などと答え、明確な理由は明らかにならなかった。」
標的が攻撃者本人ではなく弱者に向けられるメカニズム。
被告はわからないといっているがこれは専門家の仕事になるだろう。
ネコに餌を与えて助けようとした男が猫を殺すようになった。
病人に寄り添う志を持っていたであろう看護師が病人を殺すようになった。
虐待や未遂、立件されていないものを含めるとどちらももっと多くの被害があったといわれている。
看護師の事件の場合、犯行動機が患者家族の叱責から、不満の矛先が患者に向けられるようになったとは述べられていない。
患者を憎しみで殺したとは一切書かれていないのだ。
判決理由には憎しみや怒りではなく、業務を避けるための逃避という形にしている。
もしこれが攻撃的な感情であったらまた量刑も変わっていただろう。
弁護側が意図的に争点になるのを避けた可能性は高い。
しかし、攻撃された後に別のだれかを攻撃するという形式は類似している。
同時に死刑についても考える。
これまで死刑になった人と比べてこの判決は平等と言えるのだろうか。
これが無期懲役になるのだったら、不幸な家で生まれ育てられた少年の死刑は正しいのだろうかと。
また、死刑に処された人間と判決にも思いを馳せる。
死刑制度自体に疑念を起こしつつ、死刑とはそれほど重い罪であるという理解に至る。
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