鈴木農林水産大臣発言に見える2つの危険性
鈴木農林水産大臣のいう、米価格は市場に任せるべきとの発言。
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これ自体は正しい。
しかし、それはあくまでも市場が常識的な動きをしている場合である。
市場、ことに一部の機関が暴走した場合、国民の暮らしを守るためそれを止めるのもやはり政府の責任である。
例えば、アベノミクスで円が投機筋に狙われ無意味に価格をあげられたり、日本の物価高を見越して日本の土地が外国人投資家から無制限に買い占められ暴騰を余儀なくされたりすれば、輸入企業が打撃を受けたり家賃が高くなったりと多くの国民が被害を被ることになる。
投機による価格高騰は庶民の賃金上昇に関係なく起こり生活を破壊する。
鈴木農水相は洋服の価格にも政府は介入しないだろうと例えてみたが、もし高級ブランドではなく一般的な衣料品が高騰したとしたらやはり介入すべきことで、彼の指摘は的を射ていない。
米や魚介類も海外での寿司ブームや他和食ブームで需要が高まっているのも事実。
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特に日本米は品質と安全性において富裕層から人気があり、高値で売買されているというニュースも耳にする。
だから、米生産は日本が資源国にもなり得る重要な要素でもある。
その反面、投資家の中には米を買い占める層がいてもおかしくないし、今回の米価格高騰と米不足についても一部そういった要素があることは確認されている。
鈴木農水相の米価格高騰を容認する発言は二つの危険要素がある。
価格高騰を容認?
一つは先ほど言った投機に狙われる恐れである。
たしかに首相が米の価格に口を出すのは要人発言であるが、鈴木農水相の価格に口を出すべきではないという発言もまた要人発言と言えよう。
「米が高くなっても介入はしないよ」と政府要人が公言してしまえば、価格は方向性を確約されたことになり、投資家にとってこれほど簡単な商品はない。
アベノミクス自体の評価は置いておいて、政府が金利をあげない方針と公言すれば、投資家は安心して円を売りまくれる。
金利を抑えられた通貨は価格上昇を抑制させられるし、利ザヤで儲けることも期待できる。
ストッパーがない、制限はかけないと明言してしまえば、投機筋がその発言を担保に極端な売り買いを始めないとも限らない。
非常に危険であり、軽率な発言である。
彼は国民の生活を守らなければいけない立場にありながら、手札を見せ手の内を明かしてしまった。
これではモラルよりも利益を優先する企業、投機家、投資家に仕掛けられるのが昨今のマネーゲーム化された現代の市場の現実であり、とっても危険なことなのだ。
そして一番の問題は投機筋によって上げられた米価格による利益は、米農家の収入とはならず投機家の懐に入るということである。
米価格の上昇は本当に米農家のためになるのか
もう一つの危険性は、米農家への長期的な打撃である。
日本では米騒動と言われる大きな米不足・米価格高騰を2回経験した。
特に平成の米騒動では米離れが著しく加速し、回復していない。
皆パンとかパスタなどの代替食品を食べる習慣がついてしまい、米不足が解消しても米食も戻ることはなかったと推測できる。
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今回の米不足でも同じことが起こらないとも限らない。
米価格がこのまま高騰すれば、庶民の多くは米を食べるのをやめるだろう。
米の需要が減れば、米の生産量自体は増やせなくなる。
米農家が一度引退してしまえば、すぐに復帰はできない。
供給は一朝一夕に戻ることはないのだ。
また、米価格が高くなるということは米生産コストの増加とブランド化が進むということでもある。
そうなれば米生産の新規参入が難しくなる。
政府の役割とは何か
鈴木農水相のお米券での対応という話もおかしい。
お米券の財源はどこから来るのか。
我々の税金からである。
米価格の上昇を許し、その差分を我々の税金で補填する。
それは我々の税金を農業関係者への利益として横流しするスキームになりかねない。
一方、石破政権が備蓄米を放出したことは安価な米の迅速な提供、米投機のけん制という重要な働きをしただけでなく、日本人の米食の習慣を維持したという面で大きな意味があったと言えよう。
小泉前農水相の米価格が低下している、備蓄米を放出するとの発言は中には、もともと安い地域の値段を公表しただけだなどと軽率な部分もあった。
しかし、これは投機目的の米の保管者に米を手放させ、米の市場価格を抑える意味では彼の軽口は十分役割を果たした。
また石破前首相は岩屋外務大臣に中国と交渉させ、中国市場に日本米を開拓した。
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「米不足なのに中国に輸出するとは何事か」との批判もあったが、輸出するのが今とは岩屋氏も石破氏も言っていない。
輸出先が増えれば将来的に安定した米の需要が期待できるよになる。
沢山作っても余って売れないかもしれないという恐れがなくなれば米生産にも手が出しやすくなるだろう。
不作の年は国内需要を優先し、豊作で余れば海外に輸出するという予期せぬ出来事にも柔軟に対応できる体制を整えつつあったのだ。
鈴木農水相の発言は恐らくだが、一部の生産者の近視眼的な要求に後押しされたものだと思われる。
しかし、それは長期的に見て生産者の利益につながるとは思えない。
そして疫病、戦争、飢饉、恐慌が来たときに国民を守ることができるとも思えない。
多くの米農家は鈴木農水相の政策に賛成かもしれない。
しかし、その事実を以て農業従事者(専門家)の意見が一般人の反対よりも価値があるとすることは暴論だ。
なぜなら大臣というのは、生産者と消費者どちらかに偏ってはならず、どちらにも目を配ってバランスを考えるのも一つの仕事である。
総理大臣というのは国民の代表であって、消費者が困窮した場合、生産者との間を取り持つ調整役でもある。
石破前首相の政策が完ぺきだったとは言わない。
しかし、政府による介入が必要ないということは決して正しくない。
意図的なのかそれとも考えが至らないのかはわからないが、鈴木農水相の「コメの価格に口出すべきではない」は、職務放棄、職務怠慢以外の何物でもないだけでなく、さらなる危険を呼び寄せる失言だったと言っておこう。
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